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Dr.RED

「こんなことを云っては悪いかもしれませんが、どうしてみんなは放っといてくれなかったんでしょう、放っといてくれれば親子いっしょに死ねたのに、どうして助けようとなんかしたんでしょう、なぜでしょう先生」

登は辛うじて答えた、「人間ならだれだって、こうせずにはいられないだろうよ」

(中略)「生きて苦労するのは見ていられても、死ぬことは放っておけないんでしょうか」おふみは枕の上でゆらゆらとかぶりを振った、「もしあたしたちが助かったとして、そのあとはどうなるんでしょう、これまでのような苦労が、いくらかでも軽くなるんでしょうか、そういう望みが少しでもあったんでしょうか」 (「赤ひげ診療譚」山本周五郎著・新潮文庫)

定期的になんとなく繰り返し読みたくなってしまう、私の愛読書のひとつに山本周五郎の「赤ひげ診療譚」があります。久しぶりに本棚から引っ張り出してきて、改めていいなぁ、と思いながら読みました。

「人間ほど尊く美しく、清らかでたのもしいものはない」と去定は云った、「だがまた人間ほど卑しく汚らわしく、愚鈍で邪悪で貪欲でいやらしいものはない」 (同上)

この矛盾に満ちた言葉が、赤ひげと呼ばれる医者・人物を如実に表しています。この賢人も理想と現実の間で揺れるひとりの人間であり、それでもやはり徒労かもしれない「医術=仁術」に賭ける。ただの綺麗ごとが並ばないところ、でもやはり性善説を肯定「しようと」するこの作品が私はとても好きなのです。

黒澤映画でもおなじみの赤ひげ。はじめて観たとき、衝撃的に面白くて驚いたのでした。白黒でもこんなに面白い映画があるんだ、と。

何年か前、正月ドラマでリメイクもやってましたっけ。鈴木杏ちゃんの演技力に圧倒されたのもこの作品です。まだ「女優」というよりは「子役」と呼べるような年齢だったと思います。それなのに、ものすごい存在感と演技力でした。(のちに蜷川演出の「ロミオとジュリエット」に出ていて「ああやっぱり」と思いましたとも!)

で、原作の方です。これまた山本周五郎は「厳しい現実」を容赦なく書く作家です。ところが強烈なカタルシスはないのに、読後感がものすごく爽やかで、心が温まるような気持ちになるので不思議です。多少文体は古臭くて読みにくいかも知れないけど、「最近どうも心が鈍ってるなぁ」という方にお薦めします。

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